大正時代に建てられた商家「旧野口梅吉商店」で共同生活を送る北海道教育大学函館校の学生らが3月6日、子どもたちに無料で本を届けるサービス「おうちが図書室」を始めた。
サービス対象は幼児から小学生まで。子どもの年齢に合わせて学生らが3冊を選び、「お楽しみセット」として自宅まで届ける。子どもたちへの手紙や、「挑戦状」と題したなぞなぞなども同封。貸出期間は1週間で、返却日に回収する。新型コロナウイルスの感染リスクを減らすため対面での手渡しは行わず、配達・回収共に家の前などに置く方式とする。
さらに、本は毎回消毒し、配達や運営に関わるメンバーは毎日体調をチェックするなど、できる限りの感染拡大対策を行う。サービスの実施期間は24日まで、返却最終日は31日。趣旨に賛同して協力するはこだて未来大学3年の軍司俊実さんは「家で暇を持て余している子どもたちにとって、活字や普段あまり触れることのない知識に触れる機会になればすてきだなと思う」と話す。
旧野口梅吉商店は、1913(大正2年)に米穀店として建てられた和洋折衷方式の商家建築。学生らは、渡島総合振興局などが取り組む「木づかいプロジェクト」の一環で外観の修繕などに携わったことが縁で、「わらじ荘」と愛称を付けたこの建物に昨年12月から住み始めた。4月には建物内に私設図書館を開設する予定で、子ども向けの書籍や絵本が多数寄贈されている。
サービスを発案したのは、わらじ荘の住人で同大4年の下沢杏奈さん。学校が休業となり、子どもたちが暇で困っているとの母親たちの書き込みをSNSで目にしたことから、寄贈された本を必要とする家に無料で配達し、後日回収する方法を考えた。体調不良でクリスマスの行事に参加できず悲しい思いをしていたら、サンタ姿の郵便局員が本を配達してくれた――という下沢さんの子ども時代の思い出もヒントになった。
「わらじ荘」のSNSで6日にサービス開始を発表したところ、一日足らずで10件ほどの申し込みがあり、さっそく7日に配達を始めた。お礼と応援のメッセージがドアに貼ってあったり、.絵本を開けて喜んでいる子どもの動画が送られてきたりしており、下沢さんは「本を配っているだけなのに、こんなにもたくさんの言葉や気持ちを頂けて本当にうれしい」と反響の大きさをかみしめる。申し込みの増加に伴って蔵書の在庫が少なくなっているため、子ども向けの書籍や絵本の寄贈も呼び掛ける。本の配達や寄贈の申し出は、「旧野口梅吉商店-わらじ荘-」のフェイスブックページと電話で受け付ける。