今年10月、ツイッターに「函館市営地下鉄架空路線図」と題したナゾの路線図が投稿された。旧函館市内を描いた白地図に、西旭岡とはこだて未来大学を結ぶ「学園線」、JR五稜郭駅と亀尾を結ぶ「空港線」、函館山ロープウェイとJR桔梗駅を結ぶ「函館山線」の3路線が描いてある。
もちろん函館市に路面電車はあるが、地下鉄はない。「架空路線図」と名乗る通り、これは全くのフィクション。だが、3つの路線で要所をくまなくカバーする「かゆい所に手が届く」ような駅と路線の配置が市民や函館出身者などの注目を大いに集め、さまざまな感想やコメントが寄せられるとともに100回以上リツイートされた。
ただ、この路線図を投稿したアカウントは、見る人の想像に任せようとの意図があったのか、制作の趣旨や路線図の見どころなどを細かくは解説していない。そこで、公開から2カ月が経過した今、路線図の制作者・投稿者であるAnchorman@函館さんに、改めて「函館市営地下鉄架空路線図」制作の意図や、なぜこの完成形になったのかなどについて尋ねた。
―――架空路線図、細かく見れば見るほど、よく考えられているなぁと思いました。なぜ、これを作ろうと思ったのでしょうか?
Anchorman:今年の年頭に弘前大学の学生が創作した架空の弘前地下鉄路線図がメディアに取り上げられ、釧路や帯広でも創作が続きました。その流れで作ったと言い訳をすれば、マニアックな奴と思われずに済むかもと思ったからです(笑)。
―――なるほど。いつかは作って世に出そうと思っていて、良いタイミングだったということですね。改めて、今回の路線図の設定を教えてください。
Anchorman:今年実施された国勢調査はちょうど100周年でした。100年前の第1回国勢調査では、函館市(当時は区)は人口規模で国内9位の大都市でした。もし今もそのまま国内9位の都市だったとしたら、人口は130~150万人となるので、その規模を仮定して作りました。
国勢調査の順位が100年前と同じだったら、函館は130~150万都市となる
―――どこを駅にするか、駅と駅をどの路線で結ぶかなど、非常にうまく考えられているように思いました。制作に当たって工夫したポイントを教えてください。
Anchorman:人口150万前後で地下鉄と私鉄の路線が多数ある、福岡市・京都市・神戸市を参考に、路線数は3つにすることを決めました。函館山線は街を南北に貫く都市軸になる路線として、ロープウェイやJRとの交通結節、乗り換え利便を考慮しました。学園線は市内4つの4年制大学を全部結んだら楽しい学生生活だろうなとか、五稜郭公園に行こうとしたのに間違えてJR五稜郭駅で降りてしまった観光客にも便利だろうと想像しつつ路線を描きました。
空港線はJRとの相互直通運転により函館駅と空港方面とを結ぶ路線で、これは福岡市営地下鉄をイメージしています。乗換駅のうち湯の川温泉駅だけは、ホームを挟んで平面乗り換えができる表参道駅のようになっています。
「空港線」は五稜郭駅からJR函館駅まで乗り入れ、函館空港と函館駅を1本で結ぶ
―――作ってみて気付いたことや、改めて感じたことがあれば教えてください。
Anchorman:函館は路面電車サイズの街としてなじんできたので、駅間平均距離1キロ弱の地下鉄に切り替えた場合、どの停留所を間引くか悩みました。この架空路線図では、地下鉄ができても市電は函館駅から函館どつく・谷地頭まで存続していて、西部地区の住民と観光客の足となってます。旧市街を走る札幌市電のイメージです。
地下鉄と路面電車の関係は、札幌市をモデルとした
後は、地元市民ゆえ土地の高低差や地質が頭をよぎってしまうのが邪魔になりました。「陸繋砂州(トンボロ)に地下鉄はあり得ない」と言う人もいそうですが、そういう人には「青函トンネル掘削技術が応用されている」と返したいなと。皆さんには創作を楽しむ気持ちで、「ああ、この辺は札幌の真駒内のように地上を走ってるんだな」など、自由に想像して楽しんでいただきたいです。
函館市街地は、陸地と島(現在の函館山)の間に砂が堆積してつながった「陸繋砂州」の上にある
―――さまざまな反響が寄せられたと思います。印象に残ったものを教えてください。
Anchorman:皆さん概ね架空路線図を楽しんでいただけたようで、「俺んち○○駅の目の前だ」「地下鉄あったら通勤通学まじ便利」「冬の渋滞に巻き込まれなくて済む」「子どものころからの夢」「今から実現させて」などリツイートも多数頂きました。中には「東山地区の住民から学園線の環状化延伸要望が出そうだ」など路線図の先を妄想してくれる人もいて、皆さんの反応を楽しませていただきました。
架空路線図では学園線と空港線が乗り入れる五稜郭駅
―――今回の路線図が何かのきっかけになればというような思いはありますか?
Anchorman:「地下鉄が走る人口150万の函館市の住民だったらどんな暮らしをしてるだろうか」と皆さんがイメージして楽しんでくれたらうれしいです。想像をあれこれ広げていくのは楽しいことで、東京メトロのCMに石原さとみさんが出演してるんだから、函館地下鉄のCMは永野芽郁さんだよな、とか(笑)。
現実社会はいろんなモノ・コトが縮小しつつあって閉塞(へいそく)感も強いですが、それでもやっぱり人が理想を描くことは大切で、理想をカタチにしようとする一人一人の行動によって、地域社会はより良いものになっていくと考えています。
―――本日はどうもありがとうございました。また何か楽しい妄想が生まれたら、ぜひまた我々市民に見せてください。
Anchorman@函館
http://twitter.com/nag_hkd