函館の老舗塩辛店「小田島水産食品」(函館市弁天町)がこの秋、立ち飲みスタイルの飲食店「塩辛バル」を本社工場の直売店内に開設した。
1914(大正3)年に食料品店として創業し、戦後間もない1947(昭和22)年に塩辛作りを始めた同社。経験によって得た「たるにすみ着く菌や微生物が塩辛を熟成させる」という信念に基づき、さばいたイカを一日塩漬けし、杉の木だるで1週間熟成させる昔ながらの製法を今なお続ける数少ない塩辛メーカーとして知られる。
原料や味付けなどが異なる10種類以上の塩辛を作っていることから、これまでも直売店を訪れた人に試食として塩辛を振る舞っていたが、客のほとんどが「白米が欲しい」「お酒が飲みたくなる」という要望を口にしていたという。
「家業に携わる前から、塩辛と酒を扱うバーを開くのが夢だった」と営業部長の小田島章喜さん。工場の設備改修に合わせて厨房設備などを整えて飲食店の営業許可を取得し、9月上旬から店内と店頭で酒や料理の提供を始めた。「家業に専念するうちにバーを開く夢を忘れてしまっていたが、『塩辛で酒が飲みたい』というお客さんの声を聞いているうちに、それならやってみようと思った」と振り返る。
一番人気は、10種類の塩辛を一口ずつ味わえる「ご飯&みそ汁&塩辛食べ比べセット」(500円)。箱館醸蔵(七飯町)の地酒「郷宝(ごっほう)」2種類が飲める「日本酒飲み比べセット」(500円)も人気があるという。塩辛のうまみを生かしたアヒージョやパエリア、プロの料理人が開発した「塩辛ピザ」や「塩辛餃子(ギョーザ)」など、自社製品を活用したフードメニューも用意。道南で食産業振興に取り組む事業者が手がけた「いかめし」やピクルスなどもそろえ、「ちょい飲み」から食事まで対応できる品ぞろえにした。
「お客さんから『塩辛がこれほどいろいろな料理に使えるとは知らなかった』『塩辛を調味料として使う発想がいい』という声を頂く。対面で会話できるので、率直な意見や新たな要望なども聞くことができ、とても楽しい」と小田島さん。大々的に宣伝をしたことは一度もないが、近隣の住民が気軽に立ち寄っているほか、来店客がSNSに投稿したのを見て旅行客が訪ねてきたりと、じわじわと知名度を上げているという。
営業時間は8時30分頃~19時30分頃。