函館が主産地である真昆布の魅力を考えるイベントが1月21日、函館国際ホテル(函館市大手町)で開催された。真昆布の生産や流通に関わる人や飲食店関係者など約170人が参加した。
林さんが提供した「帆立(ほたて)とゆり根真蒸(しんじょ)の煮物椀」
真昆布の完全養殖技術の確立などを目指す産学官の取り組み「函館マリカルチャープロジェクト」の一環。冒頭、事業主体として同プロジェクトを推進する大泉潤函館市長が「昆布は、ユネスコ無形文化遺産に登録された和食に欠かせない貴重な食材。地域が誇る函館真昆布の価値を再認識し、発信してほしい」とあいさつした。
フォトジャーナリストとして世界の食を取材してきた森枝卓士さんは「和食は伝統的に油脂をあまり使わない料理。油脂を使わず食材をおいしく食べるため、うまみを味わう『だし』が発達した」と解説。「肉が食べられなくなる時代が来るともいわれており、だしのうまみでおいしく食べる文化の重要性は今後ますます高まるのでは」と予想した。
料理人が用意した昆布料理の試食では、「てのしま」(東京都港区)店主の林亮平さんが煮物わんを提供。「昆布がなければ和食は成り立たない。昆布に匹敵する食材を世界中から探しているが、一切見つからない」と話した。日頃から昆布を活用したさまざまな料理を考案し、提供している函館国際ホテル総料理長の木村史能さんは、昆布料理4品盛り合わせを用意。「一つしか食べ方がない食材はあまり消費されない。昆布はだしを取るだけでなく、さまざまな食べ方がある。ぜひ自宅で試してほしい」と呼びかけた。
函館真昆布の持つ可能性と課題をテーマにしたパネルディスカッションでは、林さんが「世界的に油脂と塩分を減らした料理への志向が高まっており、海外の料理人もだしの技術を取り入れたいと思っている」と指摘。「こんぶ土居」(大阪市中央区)代表の土居純一さんも林さんの煮物わんを例に挙げ、「シンプルでクリアであるのに、そこはかとなくおいしい。こういう料理を日本人が作れるのは、昆布に支えられているから」と昆布の重要性を強調した。
さらに「函館特産の真昆布は他の昆布に比べ、上品さと力強いおいしさが両立している」とし、「昆布の中でも特異な優位性があることを、函館の人にもぜひ知ってほしい」と呼びかけた。
環境変化による天然昆布の激減についても議論され、北海道立工業技術センター長の安井肇さんは「気候変動や嵐、海流の変化やウニの食害など不幸な要因が続き、この10年バランスが崩れたが、回復する手立てはある」と説明。昆布の種苗を蓄えて不慮の事態に備えるなど、天然昆布の資源量回復や安定した養殖に向けた函館マリカルチャープロジェクトの構想を披露した。
土居さんも「函館の南茅部地区は、昭和40年代に世界で初めて昆布養殖を成功させた場所。それまで漁師は、冬は出稼ぎに出ていた。必要に迫られて新たな技術革新が起きる。この地でまた新たなイノベーションが起きることを期待している」とエールを送った。