コーヒーショップ「十字屋・旧函館区公会堂店」が11月26日、重要文化財「旧函館区公会堂」(函館市元町)内にオープンした。
約2年半の保存修理工事を経て、4月に一般公開を再開した旧函館区公会堂
十字屋は、函館で最も早くからコーヒー豆を販売したとされる老舗。3代目店主が登記した1932(昭和7)年を創業年としているが、実際の開業は大正か明治にまでさかのぼるという。創業時から末広町に店を構えるほか、2016(平成28)年からは函館朝市「えきに市場」内にもコーヒースタンド「十字屋珈琲(コーヒー)店」を出店している。
公会堂への出店は、約2年半にわたる保存修理工事を終えて一般公開を再開した4月26日に、来場者へのもてなしとして一日限定で出店したのがきっかけ。市教育委員会は一般公開再開にあたり、1階「大食堂」を飲料や茶菓子などを販売するカフェコーナーとして活用することを想定しており、そのデモンストレーション的な意味合いもあったという。その後、態勢が整ったことから常設出店に踏み切った。5代目店主の菅原雅仁さんは「コロナ禍での朝市店の売り上げを元に計算して、出店できると判断した。調子がいい時を基準に考えずに済んだので、コロナを経験したからこそ出店できたと思う」と話す。
自家焙煎(ばいせん)したコーヒー豆を円すい形ドリッパーでハンドドリップする「十字屋ブレンドコーヒー」(550円)、コーヒーを函館牛乳と合わせた「コーヒーミルク」(660円)など、品ぞろえは朝市店と同じ。大食堂内には水回りの設備がないことから、北海道乙部町で採取された、ケイ素を多く含む天然水「ガイヴォータ」でコーヒーをいれる。市内の企業が同店のコーヒーを使って開発したスイーツ「箱館港福(はこだてこうふく)カタラーナ 函館十字屋珈琲」(660円)も提供する。
「堅苦しい決まりがなく、その場所とそこにある水で楽しんでもらえるのがコーヒーの良さ。朝市店は函館の水のおいしさをアピールするためにあえて水道水を使っているが、公会堂店は水場がないことを逆手に取り、道南の名水を使うことにした」と菅原さん。来館者に向けて「早くからコーヒー文化が定着した函館で最も古くからコーヒー豆を販売していた十字屋のコーヒーを、函館を象徴する歴史的な建造物の雰囲気と共に楽しんでもらえたら」と呼び掛ける。市教委文化財課の長谷山裕一課長も「明治時代の人が飲食していたスペースで、文化財としての魅力や当時の息吹を感じてほしい」と話す。