函館出身の起業家らが設立したベンチャー企業「アノニギワイ」が8月31日、第三者への事業承継を希望する函館の事業者と引き継ぎ手を結ぶ新たなサービス「いさり灯(び)」を始めた。
後継者難による「黒字廃業」は全国的な課題で、北海道経済産業局や民間企業などが事業承継を手掛けているが、「いさり灯」は函館の事業者に特化するのが最大の特徴。函館出身で、同社の広報を担当する豊島翔さんは「全国・全道を対象としたサービスでは、どうしても大都市圏での事業承継が中心になってしまう。既存のサービスに登録している函館の複数の事業者からも『地元で後継者が見つかるか不安』との声を聞く。『いさり灯』は函館地域だけの情報が集まるプラットフォームにしたい」と話す。
サービス開始と同時に、事業の引き継ぎ手を探したい事業者の募集を始めた。事業内容などのデータだけでなく「共感」によるマッチングを大切にしたいとの意図から、事業者の思いや働き方、地域とのつながりなどに注目した記事を作成し、「いさり灯」サイトで公開する。取材は函館在住のプロのライターが担当する。記事掲載は有料で、事業承継を希望する企業が負担するが、成約時などの追加料金は不要。併せて、事業を引き継ぎたい事業者や個人の登録も受け付ける。
「事業承継といえば大都市圏ではM&Aが主流だが、地方都市ではさまざまな形がある」と豊島さん。東京で広報の仕事に携わり、昨年冬の祖父の死をきっかけに『広報の力で函館の社会課題を解決したい』との思いが募り、函館に特化した事業承継サービスを立ち上げようと決意。地域貢献できるビジネスがしたいと考えていた同僚らと3人で「アノニギワイ」を設立した。「中小企業だけでなく、個人事業、農家、漁師、祭りの実行委員会など、承継者を探す函館地域のあらゆる仕事、集まり、取り組みを取材し、後継候補者とマッチングしたい。会社を継ぐのではなく、のれんだけを継ぐ選択肢もある。地域を残すために、あらゆるものを受け継いでいけたら」と話す。