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マイワシで作る「ハコダテアンチョビ」、北海道新技術・新製品開発賞大賞に

ハコダテアンチョビの製品化に携わる異業種のメンバーたち

ハコダテアンチョビの製品化に携わる異業種のメンバーたち

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 北海道が10月12日に発表した「令和5年度北海道新技術・新製品開発賞」の食品部門で、函館近海で大量に水揚げされ、ほとんど利用されていなかったマイワシを活用した「ハコダテアンチョビ」が大賞を獲得した。18日に授賞式が行われた。

マイワシと塩、米油だけで作るハコダテアンチョビ

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 この賞は、北海道内の中小企業などが開発または商品化した、新規性・独自性の高い新技術や新製品を表彰する制度。ものづくり部門、食品部門、デザイン部門の3分野で、それぞれ大賞・優秀賞・奨励賞を選定している。

 ハコダテアンチョビは、函館近海で水揚げされるマイワシと塩、米油だけを使い、独自の手法で発酵させた食品。定置網に大量にかかるもののほとんど値段が付かず、ごく一部しか食用として利用されていなかったマイワシの活用法を模索していた異業種有志の取り組みの中から生まれた。

 大規模な設備投資などをせず、複数の事業者による連携で製品化しているのが特徴。原料のマイワシは、函館の漁師、熊木祥哲(よしのり)さんと森町の漁師、吉岡奨悟さんが水揚げしたものを使う。イワシは傷みやすいため、それぞれ独自の工夫で鮮度を保たせ、加工場に届ける。

 届いたマイワシの仕込みは、水産卸会社の福田海産(函館市宇賀浦町)が担当する。発酵したマイワシをさばき、フィレに加工して瓶詰めする作業は、就労支援施設のジョブハウス勇気(若松町)とシゴトシンク北海道(山の手3)が担う。未利用・低利用食材を活用した地域振興などに取り組む一般社団法人「ローカルレボリューション」が、レシピ考案と監修、各事業者の調整や広報などを担い、全体をプロデュースする。製品化に当たり、北海道立工業技術センター(桔梗町)の協力を得た。製品化1年目の昨年度は1トンを仕込み、全量が完売。本年度は既に5トン仕込み、順次出荷している。

 マイワシを供給する漁師の吉岡さんは「今まではマイワシが大量に取れても需要がほとんどないため、ほぼ全量が飼料用として引き取られていた。ハコダテアンチョビのおかげで、自分が取ったマイワシが食卓に届き、喜んでもらえるのが本当にありがたい」と喜ぶ。

 ジョブハウス勇気の島谷祐子さんも「ローカルレボリューションの皆さんと意見交換しながら、より良い製品のためにより良いやり方を模索してきた。作業を担当する利用者たちも、『自分たちもこの製品を作っている一員なんだ』との意識を持ち、誇りを持って取り組んでいる」と話す。

 「おさかな専門シンガー・ソングライター」として活動するローカルレボリューション監事の齊藤いゆさんは「イワシは全国的に増えており、2年ほど前から釣り餌として使われる小魚の主流が『ナゴ』からイワシに切り替わっているほど」と説明。「函館でも2020年に大量のイワシが湾内に入って酸欠死し、函館市が労力とお金を使って処分したのは記憶に新しい。ハコダテアンチョビの取り組みで、マイナスだったものが少しでも地域のプラスになれば」と展望を描く。

 同法人代表の岡本啓吾さんも「資源としてのマイワシはまだまだあるが、加工できる事業者が限られている。1日で数トン網にかかることも珍しくないが、現在仕込みできるのは1日200キロが上限。漁師、水産会社、就労支援施設などが手を組むことで新たな産業、新たな雇用を増やすのが、ハコダテアンチョビ開発の真の目的なので、この仕組みをさらに地域に広げていけたら」と意欲を見せる。

 ハコダテアンチョビは 1瓶90グラム(固形物は60グラム)入り、参考価格1,080円。今年は猛暑の影響で発酵が早く進み、フィレにできないほど身崩れしたマイワシも多かったため、形が崩れてしまったマイワシだけを瓶詰めした「ハコダテアンチョビ ビンテージ」(内容量100グラム、固形物70グラム)も同価格で販売する。今後、アンチョビを使ったソースやナンプラーを開発する構想もあるという。

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